FC2ブログ

旧イリアイ町界隈には『たまりみず』という名のサビ崩れたカフェがあります。そこでは、退屈に閉じ込められた他愛の無い、やっぱり退屈なお話がたっぷり詰まっています。そんなお話たちの一片をごらんになれる地球で唯一の場所。。

アクセスカウンター

無料カウンター出会い出会い映画SEO出会い出会いSEO対策SEM TODAY: YESTERDAY:

最近の記事

カテゴリー

全記事(数)表示

全タイトルを表示

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

新管理メニュー

WEBコンサルティング joomlaでホームページ制作 ブログパーツ制作

【小説】 明るいバス☆ドライブ 

市役所まで住民票の写しがいるというので、十数年ぶりかで市バスに乗った。

なんでも面倒なことは決まってボクに回ってくるのは、いつものことなのだ。


日差しの明るい良く晴れた午後で、バスの中の乗客はみなうつらうつらとしていて、ゆったりとした時間が漂っていた。

頭の3倍はあろうかという大きなリュックを、不釣合いにも背負いながら老婆が腰掛けている。

小学生の親子連れは、紙袋をくしゃくしゃと言わせながら調理パンを食べている。

真っ黒なシルクハットを深々とかぶっている黒ずくめの男。

シルクハット?

昔のギャング映画に出てきそうなスタイルのこの男も、今の世の中、特に珍しいってわけでもない。

成りきり映画オタクなんてそこいらじゅうにたくさんいる。

「どちらまで?」

ふいにその男がボクの横へ腰掛て口を開いた。

「ちょっとね、市役所まで」

「奇遇だな。私も丁度同じ事を考えていたんだ」

「奇遇ってそんなときに使う言葉なのかな」

「では何と?」

「失礼ですが初対面なわけだし」

男は当惑して答えた。

「ちょっと待ってください。そのカバン、ひょとして私のカバンじゃないかな」

ボクの手提げカバンを見ながら男が言った。

「まさか。これは間違いなくボクのカバンです」

「では証拠は?あなかのものだとする確たる証拠があるのですか?」

カバンの中にはマルボロとライター。それにメモ帳。ボールペン。それから古本屋で買った文庫本が2冊。

「ほら、どれも誰もが持ちえるものだし、私が10年前に失くしたカバンとそっくりなのですが」

「10年前って。そんなカバンとうに朽ち果てているんじゃないですか。これは紛れも無くボクのカバンです」

「だが、証拠が無い」

「じゃ、あなたのものだという証拠があるってんですか?」

男は黙ってポケットからサインペンを取り出し、こともあろうかボクのカバンに何事かを書き付けた。

山田泰蔵

「ちょっと、なにするんですか!ボクのカバンに」

「これがその証拠です。私は山田泰蔵。ほら名刺だってある」

男が差し出した名刺には、確かに山田泰蔵という名前が記されていた。


○○建設 営業部課長補佐

山田泰蔵


「今、あなたが書いたんじゃないですか!いったいどういうつもりなんですか」

男は唇の端をひくっと吊り上げて笑い、

「ねえ、おばあさん。ここに私の名前が書いてあります。私は山田泰蔵。免許証、保険証にもそう記されています。これは私のカバンです。間違いありませんね?」

大きなリュックを背負ってうつらうつらとしていた老婆は、皺だらけの目を薄く開いて、面倒臭そうに答えた。

「そうだね、その通りさねえ」

「ほら、証拠ができました。これは私のカバンということで、異論はありませんね?」

「馬鹿馬鹿しいにもほどがある。こんなことが世の中まかり通るとでも思っているんですか」

「だけど、あなたには証拠が無い。あなたのものだとする証拠は一切ない」

「家に帰れば妻が証言してくれますよ。去年、一緒にこのカバンを買ったのを見てるんです」

「同じデザインのカバンなんて世の中無数にあるものです。肝心なのはサインがあるのか無いのか」


「ちょっと運転手さん、この人ヘンなんです、どうにかしてください」

しばらく間があってから、静かに低い声で運転手が言った。

「お客さん、運転中は立ち上がらずシートにお座りください。最近、スッ転んで頭を打った爺さんがいて社内じゃ問題になってるんです」

「だから、この人がボクのカバンを取り上げようとするんです」

「座ってくださいと言っているんです」
運転手は面倒臭そうに繰り返した。

「だけどボクのカバンが」

「カバンが無くたって死ぬわけでもなし。ちょっと大げさすぎやしませんか」

「ボクのカバンが盗られたんですよ。大げさなもんか」

「落ち着いてください。とにかく」

「これが落ち着いてられますか。あんたおかしいよ」


ベキッ!


何かが潰れるような音がして、バスが大きく揺らいだ。

その拍子に、親子連れが食べていた調理パンが軽やかに宙を舞い、焼きそばが分解して辺りに散乱した。


「ほら。言わんこっちゃない。犬を轢いちまったよ。お客さん、次のバス停で降りていただきますよ、まったく迷惑料を取りたいもんだよ」

「だからボクのカバンが!」

「いい加減にしなさいよ、あんた一体どういうつもり」

横から口を挟んできたのは、先ほどまで黙々と調理パンをかじっていた親子の母だった。

「焼きそばがこんなに飛び散っちゃって。まだ半分以上、食べられたのよ」

「焼きそばなんてどーだっていいでしょう!ボクのカバンだよ、今は」

「焼きそばがどーだっていいですって。あなた食べ物を粗末にしてもいいと育てられたの?」

「そーじゃないけど」

「でしょう。あなたのお母さんだってきっと同じ事を言うに決まってるわ」

「私は焼きそば、大好物ですけどねえ」

と、先ほどまで黙っていた黒ずくめの男。

「元はといえば、原因はあんたでしょう。返してくださいよ、ボクのカバン」

「あたたも物分りが悪い。これは私のカバンだと言ってるでしょう」

「運転手さん!お願いしますよ、この人どーにかしてよ」

「到着しましたよ、バス停」

運転手はぶっきらぼうに、フロントガラスを見ながら言った。

「早く降りてください。ダイヤが乱れます」

「そうよ、こっちも急いでるのよ、早く降りなさいよ」

「それでは御機嫌よう」


ボクはなんだか脱力感に捉われた。

一歩一歩出口へ向かって歩いたが、未練がましく後ろを振り返り、

「そうだ、おばあちゃん。そのリュック、ボクのリュックじゃないかな。10年前に失くしたボクのリュックじゃ」

老婆は眠たい目をこすりながら、顔をこちらへ向けた。

「中身を改めさせていただきますよ」

ボクは乱暴にリュックを開いて中身を取り出した。

中から大きな大きなスイカが出てきたのだった。

「ほら、このスイカ。どこにだってあるスイカじゃないか。さっきボクが八百屋で買ったスイカとそっくりだ」

「ね、皆さん。これ誰のものかなんてわかりませんよね。婆さんのものでもボクのものでもありますよね」

運転手も、親子も、黒ずくめの男も黙っていた。

ボクは乗客全てに披露するように、スイカを高々と持ち上げてみた。

ここで名前を書き込みさえすれば、ボクのものになるのだ。

スイカをゆっくりと一周させていると、小学生の男の子が甲高い声を車内に響かせた。

「なかむらちづえ!」

「え?」

スイカにはマジックで大きく名前が記されていたのだった。

黒ずくめの男が、含み笑いとともに言った。

「そのスイカはそのお婆さんのものです」

スポンサーサイト



2007/05/06 22:49|習作倉庫TB:0CM:0

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


トラックバックURLはこちら
http://ronndo1974.blog34.fc2.com/tb.php/68-608c27bb

プロフィール

ろんど

Author:ろんど
高校時代に伝説のパンクバンド『Felicitous Dog』のメインボーカルとして活躍。ライブ活動多数。「今夜はオレのためにありがとう」などのMCで一躍脚光を浴び大スターの座に躍り出た。高校3年の学祭ではトリを務め、全校生徒を完全に魅了した。バンドは高校卒業時解散。
その後デュオ『Power of myth』のメインボーカルとして再び音楽活動に入る。神話的イメージとタンゴ調POPSの融合を試み新しい音楽の創造に尽力、友人、知人、他人、周辺住民の間で一世を風靡した。活動期間わずか4年で解散。
一方、大学在籍一年時に非公認サークル『創作文藝会』を有志4人らとともに創設。初代~3期の会長に就任。文芸同人誌 『ん!?』の編集長として創刊号から第9号まで手がける。
自身も小説、ポエム、エッセイ、旅行記など幅広く投稿し作家としての一面も合わせ持った。淡い青春時代の虚栄心を克明に描いた処女作『はげ』で衝撃のデビュー。『正常な狂人』『路地裏メルヘン倶楽部』『テープスペクタクル』『シルエット』『おやっさんの体験談』『山田X』『光芒の黒』『循環』など次々とヒット作を連発し、ファンタジックな世界観をやさしく流麗な文体で表現した悲喜劇が主に女性読者層のファンを集めた。また自身の旅行記を著した『中国おったまげ探訪記』『インド・ネパールぶったまげ放浪記』などアクティヴ派作家としての一面も持ち、抱腹絶倒で痛快な文体は学生諸君に夢と希望を与えた。詩人としては、銀色夏生をもじったペンネーム 金色なめを で純情恋愛ポエムを次々と発表。学内の話題を総なめにした。他、読書案内の『ろんどのやけっぱち書房』シリーズ、映画紹介の『寝巻きでシネマ館』シリーズなどがある。
第3期目には非公認サークルから大学公認クラブへと昇格させ、大学から予算がおりるようになるやいなや、連日連夜に渡って放蕩の限りを尽くした。
学生時代はインド、ネパール、インドネシア、中国、西欧諸国等海外放浪をライフワークとした。おかげで日本社会に馴染みきれないもどかしさがある。

現在はしがない会社員。一児の父。趣味は散歩と昼寝の他、特にない。座右の銘は『私が自画自賛しなければ一体誰がしてくれよう』である。

Copyright(C) 2006 たまりみず All Rights Reserved.
Powered by FC2ブログ. template designed by 遥かなるわらしべ長者への挑戦.